
建設資材価格を調べ続けて78年。建設物価がASIBAと未来を仕掛ける理由
建設物価調査会は、2025年度のコーポレートパートナーとしてASIBAの活動に協力しています。戦後から建設資材の価格を調べ続けてきた歴史ある団体がなぜ今、学生や若者の活動を応援するのか。その理由や建設業界への想いをめぐって、建設物価調査会 総合研究所 小池正倫さん、企画開発部 中村良幸さん、ASIBA 二瓶雄太がざっくばらんにお話しします。(文・鏡理吾)
物価から建設業の未来を考える
二瓶 建設物価調査会の小池さん、中村さんは昨年からASIBAの活動に伴走していただいています。正直に言うと、当時僕は建設物価調査会についてほとんど知りませんでした。
小池 学生の皆さんからすれば、建設物価調査会という名前にはあまり馴染みがないですよね。でも、やっていることは至ってシンプル。その名の通り戦後から78年間、建設資材の相場を調べ続けてきた一般財団法人です。 国や自治体が公共工事を発注する際には、必ず積算を行い、適正な工事価格を算出しなければいけないというルールがあります。私たちはそのために必要な資材価格のデータを調査し、『建設物価』という専門誌を通して提供している、いわば公共土木のデータ屋です。
二瓶 なるほど。実際の調査はどのように行っているのでしょうか。
中村 人と人とのコミュニケーションを大切に、一見するとかなり地道な方法で調査を実施しています。全国の10拠点に約200人の調査員を配置し、建設会社や建設資機材メーカ等の調査先に毎月ヒアリングやアンケートを重ねています。 もちろん効率化や自動化も進めていますが、すべてをデジタル活用などで完結できるわけではありません。顔を合わせて話すからこそ生まれる気づきや、長年にわたって築いてきた調査先との信頼関係が、私たちの調査を支えています。
二瓶 こうしてお話を伺っていると、長年の伝統や歴史の重みを強く感じます。その一方で、お二人が取り組まれている新規事業開発や今年度からASIBAのパートナーに加盟されたことを見ると、組織としてなにか大きな変革を目指しているのでしょうか。
中村 一つ大きな課題として感じているのが、建設業界の若手人材の不足です。建設現場の技術者や職人の高齢化、若年層の就業率低下は年々深刻化しています。そこで私たちは、工業高校等への教材の無償提供や講習会の実施、研究助成など若者の関心を高め、育成につながる取り組みを続けています。ASIBAの活動を支援しているのもこうした文脈の延長にあります。やはり78年間この業界に育ててもらったからこそ、何か恩返しをしたいという思いは強いですね。
小池 私たちの調査事業は「公共工事には積算が必要」というルールがある限り続いていきます。しかし、もしそのルールが変われば、調査事業も組織そのものも揺らぎかねません。 だからこそ、自分たちでコントロールできる領域を増やしていきたい。そうした思いもあり、私の所属している総合研究所という部所では、新規事業開発や外部との連携にも積極的に取り組んでいます。

公共性と事業性というジレンマ
二瓶 お話を伺っていると、ASIBAと建設物価の立ち位置には共通点があると感じます。 ASIBAのメイン事業であるインキュベーションは、若手が自らの才能や可能性を諦めずに、クリエイションに挑戦し続けられる環境をつくるという公共性が高い活動です。ただ、プログラムを終えたプレイヤーと伴走し、一緒に成長していこうとすると、どうしても事業性へとシフトせざるを得ない場面が出てきます。伴走するプロジェクトは選択しなければならないし、ASIBA自身も組織として持続するためにはリターンを得る必要があります。 その点で、建設物価も公共性の高い調査事業を軸にしながら、新規事業の開拓に挑んでいますよね。どのようにして両立されているのでしょうか。
中村 そこはもう、やりきるという思いだけですね。小池は総合研究所、私は企画開発部という立場で、それぞれできる範囲のことを精一杯やっています。もちろん経験もノウハウもない分野なので、毎日が試行錯誤の連続です。
二瓶 それでも実際に始めて、形にしているのは本当にすごいことだと思います。
小池 これはもう性格ですね(笑)。調査事業は引かれたレールを間違いなく走ることが大事で、安定性が第一。その姿勢は大切だし、まさに建設物価の強みだと思います。 でもだからこそ、守る部分はしっかり守りながら、将来に向けた種まきもしていきたい。トップランナーにはなれなくても、前を走る人たちに食らいついていきたいという思いで、さまざまな取り組みを行っています。

二瓶 攻めの部分と守りの部分の両立は、組織にとって非常に重要なことですよね。お二人が今取り組まれていることを、具体的に教えていただけますか。
小池 私が取り組んでいるのは、建設物価が保有する膨大なデータの利活用です。その1つとして、総合研究所で過去20年余り調査・研究を続けてきた建物価格に関するデータは量・質ともに、業界でも唯一無二に近い存在です。そのデータを眠らせたままにせず、どう活かし、新しい価値につなげていけるか。 実際に、これらの調査データやノウハウを活用し、建物価格の統計情報や建物の場所や用途、規模などを入力するだけで簡単に建設費の相場を調べられる『JBCI』という会員制Webサービスを立ち上げました。自治体だけでなく、デベロッパーや損保会社、不動産鑑定士など多様な方々に活用していただいています。
中村 企画開発部では、経営企画や広報、システム開発、社会貢献まで幅広く取り組んでいます。中でも、BIM/CIMや脱炭素といった新しいテーマに関心を持ちながら、さまざまな商品開発にチャレンジしています。 とはいえ、私たちはこれまで建設資材の価格調査専門機関として78年続いてきた組織。自分の力だけで新規事業を立ち上げるのには限界もあります。だからこそ建設テック協会に加入するなど、外部の方々とネットワークを築きながら、オープンイノベーションを実現したいと考えています。

世代を越え、同じ目線でワクワクする
小池 その建設テック協会で戸田建設の斉藤さんに紹介していただいたのが、ASIBAとの出会いでした。その後、清水建設の『温故創新の森 NOVARE』で行われたASIBA FES 2024に参加して、一言で言うとめちゃくちゃワクワクしたんです。 皆さんが優秀で、最先端のことに取り組んでいるというのはもちろん、それ以上に社会に対する強い思いや希望を感じました。そんな皆さんの姿を私たちの世代にも伝えたいと思い、『未来を創る研究室』という企画の番外編として、取材をさせてもらったのが皆さんとの最初の関わりでした。 私は社会人になって30年以上経ちますが、せっかく仕事をするならワクワクすることをしたいという思いは、むしろ昔以上に強くなっている気がします。ASIBAのみなさんとご一緒しているのも、そういったワクワクする心が常に根底にあります。

二瓶 ASIBAに伴走してくださっているパートナーの皆さんにはある共通点があると思うんです。それは、変化を恐れず、むしろ変化を創る側であろうとすること。そんな前向きな姿勢が共有できているからこそ、フラットで価値のある関係を築けているんだと思います。

中村 一緒にワクワクするという点では、年齢なんて関係ないですよね。むしろ、いろんな世代や立場の人たちの視点を掛け合わせた方が、組織としての強さは増すと思います。そんな考えから、今はスタートアップの方々とも積極的に話をしています。すでにいくつかはNDAを結んで、具体的な動きも出てきました。最近は建設業界でもスタートアップが増えてきましたよね。
二瓶 そうですね。ただ今出てきているスタートアップの多くは、すでに顕在化している課題を解決するプロダクトが中心です。テクノロジーがあれば解ける課題は、いずれ誰かが解決していく。大事なのはその先にあるものだと僕たちは考えています。まだ誰も課題と気づいていないことや眠っている可能性をどう掘り起こすか。そのためには建設物価さんとの連携もさらに強化しながら、より現場の実情を知ることが大事だと感じています。
中村 私たちとしては、ASIBAの皆さんのような若い世代には、自由な発想でどんどん挑戦してほしいと思っています。たとえ突飛なアイデアでも、そこから新しい価値が生まれることがあります。そんなアイデアをどう形にしていくかは、私たち上の世代の出番です。 ASIBAだからこその発想と行動力、そして建設物価だからこそのデータと信頼、現場に根ざした知見。お互いの強みを重ねながら、一緒にワクワクする未来を描いていけたらと思います。
