
記憶のカメラ
都市と主観
「あの木陰は落ち着く」「昔あそこに工場があった」、そんな情報が多ければ多いほど、私達は街を楽しめる。街の景色には「私」の主観と「あなた」の主観を繋ぐ情報が蓄積されているという意味で、間主観性があると言えるだろう。その間主観性を情報化し、価値を持たせられれば、街の作られ方は変わっていく。[1]
ワークショップ(以下、WS)を行った水道道路沿道エリアは、かつて新宿西口に淀橋浄水場があった頃、玉川上水を代替する形で水路がひかれた直線道路を特徴とする。東京西部の大動脈である甲州街道からわずか200m、片道一車線で中層の建物と飲食店・専門店が点在する水道道路は、心地よいスケールを保っている。水道道路沿道の南側に建ち並ぶ都営住宅群は、数十年単位での建て替えが予定されている。街が変容していく中で、住民の声をさらに増やしていくことが、まちづくりWSとしての目標であった。

記憶のカメラを用いて
WSには、地元住民10名、地域外の大学生8名、ササハタハツまちラボの職員3名が参加し、WS用に開発したwebアプリ「記憶のカメラ」を用いて、位置情報・写真と紐づけられた地域固有の語りが302件、14003字収集された。[2]それらはハンディプリンターにより付箋サイズの紙に印刷され、地図の上に並べられた。地点ごとに参加者が語り合い、それまで言語化されてこなかった「あいだ」の感覚が少しずつ姿を現した。歩くこと、写真を撮ること、並べること。その身体的な行為が、語りを引き出す場をつくった。[3]

次のフェーズでは、集まった語りをもとに生成AIがラジオ台本の叩き台を生成した。「どうすれば、2040年にもっと○○なまちになるでしょうか?」という問いに、参加者がテーマを入力する。返ってきた台本を読み上げながら、参加者は内容を修正したり、書き足したりした。ラジオには未来の街での変化に対し、ポジティブな人とネガティブな人が登場する。さらに終盤には即興パートも組み込まれていた。DJになりきって[4]ラジオを発表する段になると、参加者は台本から大きく離れ、2040年の街に暮らす自分として話し始めた。



触媒とアーカイブ
コラボレーターの中條麟太郎は、WSの設計意図をこう語る。「生成AIが答えを出すのではなく、人間の創造性を引き出す触媒として用いる」。WSは、都市に対する人間の創造性を引き出すインターフェースのあり方を検証する試みだった。
このWSはまきコンペによる「暗渠商店街U35実践アイデアコンペ」でも活用された。地域に馴染みのないコンペ参加者に向けて、地元の方々に「記憶のカメラ」を使ってもらい、3Dウェブアーカイブ「ANKYO ST. ARCHIVE」のベータ版を制作した。街の地形上に、写真と語りのログが浮かぶインターフェースだ。技術を用いて都市の間主観性を明らかにする試みは、始まったばかりである。
